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移民の経済学

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友原 彰典(著)   中公新書(2020)

 

2018年時点で日本にいる外国人労働者は146万人。また、国際連合の資料によれば、日本にいる「移民」は250万人にのぼり、その数はこの10年で約3倍に増えました。本書は、移民受け入れの影響について、経済学的に考えるものです。そして、移民の受け入れによっ

て治安や私たちの賃金・税・社会保障の負担などがどうなるのか、本書では幅広く解説しています。

 

 

移民と日本の現在

 

・世界的に見ると、日本の移民受け入れに関して発展途上の国です。

 

国際連合の「国際移民ストックの傾向」によると、2019年における移民数世界第1位はアメリカの5066万人です。

 

2位であるドイツの1313万人、第5位のイギリス955万人に比べて、日本は250万人と、世界232ヵ国中第26位です。

 

総人口に占める移民の割合でみると、日本は世界的な水準をかなり下回っています。2019年におけるその割合は2.0%で、世界232ヵ国中第170位です。

 

アメリカは15.4%、ドイツは15.7%、イギリスは14.1%です。韓国では2.3%となっており、日本は移民割合はそれよりも低い値です。

 

2018年における外国人労働者を国籍別にみると、中国籍外国人労働者(永住者、定住者、技能実習、留学、など)の約27%を占めて最も多くなっています。

 

続いて、ベトナム(技能実習など)が約22%、フィリピン籍(永住者、定住者、など)が約11%、ブラジル籍(永住者、定住者)8.7%、ネパール籍(留学、など)5.6%韓国籍(専門的・技術的分野、その他)4.3%アメリカ籍は2.3%です。

 

G7/8(イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシア)にオーストラリアとニュージーランドを加えても、その割合は5.3%程度にしかなりません。

 

都道府県別にみると、外国人労働者の就労数が多い順に、東京都が30%、愛知県が約10%大阪府が約6%となっており、大都市に集中しているのがわかります。

 

ただ、都道府県別・在留資格別に見ると特徴が異なっていて、「専門的・技術的分野の在留資格」の割合が高いのは東京都(31%)、「技能実習」の割合が高いのは宮崎県(67%)、「資格外活動(留学)」の割合が高いのは福岡県(41%)、「身分に基づく在留資格」の割合が高いのが静岡県(62%)となっています

 

・産業別の影響に関しても、同じような議論が当てはまります。日本全体で見ると、外国人労働者が一番多い業種は、製造業(約30%)で、サービス業(16%)、卸売業・小売業(約13%)、宿泊業・飲食サービス業(約13%)が続きます。

 

日本の雇用が奪われるのか?

 

・移民を受け入れる場合、議論の焦点は競合です。確かなことは、移民と競合する人の賃金は下がる可能性が高いということです。

 

そして、日本における賃金がどうなるかは、海外から流入する移民数によります。大量の外国人が来れば、賃金が低下する可能性は否定できません。

 

・例えば、日本の建設業は深刻な人手不足であり、外国からの労働者は欠かせないといわれています。すでに多くの現場で外国人が働いていて、今後とも、しばらくの間は、外国人労働者への依存度が高まるとされています。

 

そして、一番の関心事項は賃金かもしれません。移民が増えると建設業での賃金が低くなるという研究があります。1998年から2005年までにノルウェーの建設業で働く個人データを分析したところ、移民労働者が10%増えると、市民の賃金が0.6%下がるとされています。

 

また、移民の雇用割合が増加した仕事の分類で働いている人ほど、賃金の伸びが低くなっていました。

 

賃金への影響は、技能レベルによっても変わります。技能を学歴で分類して分析すると、高技能(高学歴)である人の賃金には影響がありません。しかし、低技能や中技能の人の賃金は影響を受ける結果となりました。

 

・移民の影響は賃金の低下だけではありません。雇用にも変化が見られました。

 

移民労働者の増加は、国内の労働者が建設業で働かなくなること(退出)と強い関連があります。国内の労働者が建設業を辞めてしまうのです。さらに、学歴が低い労働者ほど失業しやすい傾向があります。

 

国境がなくなれば生産性が上がる理由

 

・通常、多くの国では移民の受け入れに制限があります。しかし、国境がなくなり、自由にいろいろな国に行けるようになると、世界のGDPが増えるという主張があります。

 

最近の研究では、労働者が国境を越えて自由に移動できるようになると、世界のGDP67%から147%増えると試算されています。

 

では、移民による世界のGDPが増えるのはなぜでしょうか。その主な理由は、途上国から先進国へ移る労働者の生産性が上がるからです。

 

また、先進国などの効率的に経営されている企業や腐敗の少ない社会制度なども、生産的に働く手助けをします。

 

先進国へ来た移民労働者は、これまでの途上国とは異なり、より好ましい環境で働く機会に恵まれることになります。そのため、生産性が上がり、世界全体で見ると、GDPが増えるからです。

 

大量の移民が先進国を変質させたなら

 

・しかし、国境がなくなれば生産性が上がるという主張には、懐疑的な見解もあります。

 

大量の労働者が途上国からその家族も同伴して先進国へ移民してくると、その結果として危惧されるのが、移民を受け入れた国の政治経済並びに社会制度・組織を、急激に変えてしまう可能性です。

 

移民が望ましくない規範を持ち込み、従来の社会に影響を与えるかもしれません。生産性の優位を支える制度や組織に大きな変化があれば、GDPも期待通りには増えない可能性もあります。

 

日本における外国人の犯罪率

 

・外国人が増加すると、日本における犯罪は増えるのだろうか。実は、外国人の凶悪犯罪率は、日本人よりも高くなっています。

 

2018年の統計を使って計算すると、日本人による人口当たりの犯罪率が、0.0009%であるのに対し、外国人のそれは0.026%です

 

日本人1000人のうち、9人が罪を犯すのに対して、日本にいる外国人1000人のうち、26人が罪を犯す計算になります。これらの数値は、重要犯罪(殺人、強盗、放火、強制性交など)の統計です。

 

一方、重要窃盗犯(侵入盗、自動車盗、ひったくりやスリ)では、違う結果となります。日本人による人口当たりの犯罪率は、外国人のそれよりも高くなります。

 

犯罪は増加するのか

 

今のところ、外国人によって犯罪が増えるという確固たる証拠はありません。一方で、移民の恵まれない就業機会が犯罪を生むという示唆は、受け入れ国に関わらず、普遍的な課題でもあります。

 

 

ー 目次 -

 

序章

移民と日本の現在

 

第1章

雇用環境が悪化するのか

 

第2章

経済成長の救世主なのか

 

第3章

人手不足を救い、女性活躍を促進するのか

 

第4章  

住宅・税・社会保障が崩壊するのか

 

第5章  

イノベーション起爆剤になるのか

 

第6章  

治安が悪化し、社会不安を招くのか

 

終章   

どんな社会を望むのか

 

 

感想

 

・移民政策は国論を二分する可能性もあるとてもセンシティブな問題です。我々の生活や雇用などに大きな影響を及ぼす移民政策の行方はとても重要であり関心がある人も多いのではないでしょうか。

 

直近では入管法改正が2018年に行われ、2019年4月から施行されましたが、この入管法改正について政府(改正時、安倍政権)はあくまで人手不足による労働力の確保であり、移民政策による受け入れではないとしています。

 

ただし、2018年の入管法改正で新設された特定技能(1.2号)の特定技能2号の場合、定期的な更新はありますが在留期間の上限はなく、要件を満たせば家族(配偶者、子)の帯同も認められるなど事実上の移民政策と変わりがないとする意見もあります。

 

政府の言うとおり厳密に言えば移民政策でないにしても、後々、移民受け入れの方向へ舵を切るのではないかと心配している人達もいます。

 

もちろん、積極的に移民を受け入れてもいいのではないかという意見や今の日本の現状や国際社会で生き残っていくためにも移民は受け入れざるを得ないのではないかという意見もあります。

 

移民を受け入れることによって得られるメリット(労働力不足の解消)(経済発展・諸説あり)(ある研究結果によると、移民を受け入れた国での経済活動には大きな変化は見られなかったという報告もあるそうです)

 

移民を受け入れることによって社会が変化すること(雇用の奪い合いや賃金の低下)(社会の分断)(治安情勢の変化)

 

また、移民を受け入れないことによる損失(国力低下による国際社会への影響力低下)など、移民受け入れの可否によって一長一短があると思います。

 

また、国の人口や経済的な規模によっても移民の受け入れによる影響は違ってくると思いますが、とても難しい問題です。

 

2010年代初頭には日本の総人口は減少に転じましたが、内閣府の調査によると、現状のまま推移した場合、100年後(平成24年1月に推計)には現在の3分の1まで急減するそうです。100年後の2110年(平成24年1月に推計を基にして算出)には4,286万人程度になるものと推計されています。

 

このまま少子高齢化が続くことを許容しコンパクトな国を目指して行くのか、移民を受け入れて総人口をある程度維持し続けるか、また、限定的な移民の受け入れを行い総人口が減るタイミングを極力遅らせる方法を取るか、移民政策は長期的なスパンで考えなければいけない課題であるため、早めの決断が迫られます。

 

自分の考えとして移民受け入れの賛否についてはまだ決めきれていませんが、まず、政治・行政には少子化対策に力を入れてほしいものです。